小さな子を持つ親の6割近くが「抗菌薬(抗生物質)は風邪に効く」と誤った認識を持ち、4割以上は子どもが風邪の時に飲ませたいと思っている―。薬剤耐性(抗菌薬を使っているうちに薬に対する抵抗力をつけた細菌=薬剤耐性菌=が出現し、抗菌薬が細菌による感染症に効かなくなること)を研究している国のAMR臨床リファレンスセンター(東京都)が行った調査で分かりました。抗菌薬はウイルスが原因の風邪には効果がないどころか、不適切な使用によって薬剤耐性の要因にもなります。センターでは「子どもに飲ませる薬を正しく理解することが重要」と呼びかけています。
調査は6月、0―5歳の子どもを持つ親に、抗菌薬などについてインターネットでアンケートし500人の回答を集計しました。主な調査結果を紹介します。
【抗菌薬の効能について】
7項目の効能について抗菌薬に当てはまるかどうかを聞いたところ、結果は次のグラフの通りでした。抗菌薬については、すべての項目で「あてはまらない」が正解ですが、間違った認識をしているのが「抗菌薬はウイルスをやっつける」では7割近く、「抗菌薬は風邪に効く」は6割近くに上ることが分かりました。「抗菌薬は治ったら早くやめる方がよい」「抗菌薬をのむと風邪が早く治る」「抗菌薬はのどの痛みに効果がある」「抗菌薬は熱を下げる」「抗菌薬をのめば鼻水が止まる」の項目でも、「あてはまる」と誤った回答がそれぞれ高い割合になっています。
【子どもが風邪をひいたら、抗菌薬を飲ませたいと思いますか】
「のませたい」が44.4%、「のませたくない」が55.6%でした。飲ませたい理由としては、
・早く治りそうだから
・症状が緩和されるから
・短期的に飲む分には効果がありそう
・長引く辛い症状を早く治してあげたい
・悪化することを防ぐことができると思うから
・これまで抗生物質を飲ませたら症状が改善されたことが多かったから
・すぐに効果が出ると思うから
・高熱がでているときなど効果が高いから
などでした。
【家庭での抗菌薬の管理について】
余った抗菌薬を取っておいたことがあるかどうかを聞いたところ、「子どもの抗菌薬を取っておいたことがある」25.8%、また、「子ども以外の抗菌薬を取っておいたことがある」10.6%、「子どものものおよび子ども以外の抗菌薬両方を取っておいたことがある」5.0%となっており、合計で41.4%が抗菌薬を取っている実態が判明しました(次のグラフ上)。
また、抗菌薬を取っておいたことがあると回答した人に、その抗菌薬を子どもに使用したことがあるかどうかを聞いたところ、64.3%の人が使用したことがあると回答しました。「本人が以前処方された抗菌薬」の使用は45.4%、「本人以外の家族に処方された抗菌薬」を使用した人は13.0%、「本人に処方された抗菌薬および本人以外の家族に処方された抗菌薬の両方」を使用した人は5.8%で、抗菌薬が不適切に使われていました(グラフ下)。
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抗菌薬・抗生物質は風邪には効果がなく、使用で悪影響も
~風邪の対処方法も紹介~
国立研究開発法人 国立国際医療研究センター病院
AMR臨床リファレンスセンター 情報・教育支援室長
藤友 結実子さん
今回の調査では約6割の人が「抗菌薬・抗生物質はかぜに効く」と誤って考えていることがわかりました。抗菌薬に関する正しい知識はまだまだ普及していないといえます。
小さい子どもはよく熱を出したりかぜをひいたりします。子どもの体調が悪いのを見ると、早く治してあげたい、なんとかしてあげたいという気持ちになります。また親御さん自身にも、仕事を休みにくかったり、子どもをみてくれる人がいない、といったさまざまな状況があると思います。しかし、よかれ、と思ってのませている抗菌薬が実はかぜには効果がなく、かえって下痢や発疹などの副作用の原因となること、不要な抗菌薬をのむことがひいては薬剤耐性菌の出現につながる可能性があり、本当に抗菌薬が必要な病気の時に、使える抗菌薬がないという事態が将来起こり得ることを、子どもを持つ親御さんにぜひ知っていただきたいです。
かぜの原因はほとんどがウイルスです。普段健康で免疫に問題ない子どもであれば、かぜは自分の免疫力で自然に治っていきます。かぜをひいた時の対処方法は下のPDF画像に詳しくありますのでご覧ください。
「抗菌薬(抗生物質)はかぜを治す薬ではない」「かぜをひいた時に抗菌薬をのんでも早く治ることはないし、症状は緩和されない」という知識が当たり前の世の中になることを目指して、当センターでは今後も広報・教育活動を続けていきたいと思います。